だいぶんウィーン市内での生活に慣れ、いわゆる欧米人しか周りにしかいない日常の生活にも気を使わなくても過ごせるようになってきました。
それとともに、はじめは日本との違いばかりに目を奪われていましたが、日常の仕事の一部として関わり合いを持つ時間が長くなるにつれ、欧米人であっても、われわれと変わらないところなども目にするようになり、次第に「欧米人は」で括りをしていた自分が、次第に「○○さんは」という、個人がどういう人かを見れるようになってきました。
ヨーロッパの人々であっても、
やっぱり大変なことは大変なのです。
リウマチ外来、リサーチ検査部門、基礎研究部門、入院部門どこに行っても、それなりの大変さがあります。
今日はその中で、とあるArzt(男性医師)の状況を、想像を交えて書いてみようと思います(さすがにどう思うかなんて聞けない)。
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Case
30代後半リウマチ科医師
学位をすでに取得しており、持ち論文、研究は超音波診断に関するものが多い。実際に超音波をしているさまは洗練されており、同僚から依頼されることもしばしばである。EULARの超音波標準手技の論文にも名前を載せるほど、自分に技術をつけているのは間違いない。BIOMETRY部門の検査技師などとも含めて、現在進行形のStudyを複数抱えているようだ。
それだけに、いつからAKHにいるかは定かではないが、かなり長い期間いるというのは間違いなさそうだ。しかしポジションとしては、Dr. Med.かUniv. Dr.であり、まだまだもっと上級の医師も多数いる。そのためか、週に4日くらいは朝から外来をしている。おそらく不在の日も、Neibenの病院で外来をしているのであろう。
私としては日本で外来は週2~3程度であるので、ほぼ毎日というのは、いくら慣れた仕事であってもきつい。正直AKHは公立病院であるため、患者層も格段に良いというわけではない。 外来に出陣しているのは、同じくらいの立場のDrが大体2~3名程度と、いわゆるSupervisorとしてProfessorが一人出る。 このSupervisorは月交代であり、多数いる上級医師からローテーションで回ってくる。
しかも見るべき患者数は、圧倒的に若手が多い。大体2~3倍である。
というのも、以前書いたとおりこの国では、誰が診察するかを患者が選ぶことが本当にできないからである。
注釈: 本当に自分がお金を持っていて、医師をえらぶ患者は、Private Klinikといって、完全自費でかかる私設の病院に行く。医師の中には、このPrivate診療しかしない医師も少なくない。
つまり30代後半は、仕事に対する実力も上がってくるが、同時に様々な仕事を抱えるともに、上との挟み撃ちで最も負担のかかる世代なのである。
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ここからは、実際にあったことを想像を含めてお書きする。
8:15
今日は週一の放射線科との合同カンファレンスに出席。
医局秘書さんに討論の論点を解釈して教えている。さらに前日に同僚から頼まれた1例を議論にあげたところ、病歴の記載などが不足していて、炎上してしまった。(同僚はNeibenの日で不在)
9:05
外来開始。すでに15名ほどの患者の名前が上がっている。受付は11時過ぎまであるので、焦っても仕方ない。マイペースに外来を始める。とはいえ、彼はいつも朝が弱いようで、朝はやや苛立ちを見せるときがある。
9:15
日本から来た見学者(私!)が外来の見学に入室してくる。ドイツ語が分からないので、時々英語で別に説明をしないといけないので、大変。とはいえ、彼は患者に話しかけられてもわからないので、トラブルのもとにはならない点では問題ない。
10:00
いつものように1患者終わるごとに、大学メールを確認する。多くはSPAMであるが、不意にとんでもないメールを見つけた。なんだか支払いのようである。一斉メールで送られてきており内容が納得がいかないよう。ため息が出る。でも一応確認するために、担当部署に電話をする。説明はわかるが、自分にとってはよくない情報である。
そのさなか、BIOMETRY部門の担当が、患者の情報について確認に来る。2、3回来て確認されるたび外来が中断する。終わって患者と話を再開したところ、院内の呼び出しベルが鳴り響く。担当部署からのコール要求だ。再び外来を中断し、電話。今回は簡単な確認だったようで、15秒で電話が終わる。そして患者の診察を再開する。AxSpAの患者で、薬が効かないとのこと。熟慮のうえ、バイオ導入を決定し、様々な同意書を用意。日本と変わらず結構いろいろあってめんどくさいよう。
10:30
別の患者が入ってくる。薬を最大限使っているのに肘が痛いといって、引き下がらない。確かに肘が腫れている。ただ、患者自身もインフリキシマブの点滴を受けているにもかかわらず、どうも不定期に受けているようだ。コンプライアンスに問題がある。
高齢であり、言っていることを息子がドイツ語に訳して伝えてくるため、なかなか本人に思うように重要なことを伝えられない。また呼び出しベルが鳴る。ドアから外来看護師が別の電話を持ってきて、患者から電話が入っているという。思わずため息が複数回出る。最終的に整形外科への対診を希望してきたので、紹介状を用意した。とはいえ、整形外科の中のRheumaセクションは週1回しかない。
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11:00
やっとこさ前述の患者の診察が終わったので、メールチェック。なんだか重要なメールを発見した。書いている論文の直しが入ったものが関係者から送付されてきた。気になるため、外来中であるが、ダウンロードして確認。 おっと、見学者を忘れていた。ごめんごめんという。彼も日本で論文を書いているのだろうか?(私)自分が超音波の論文を書いていることを知っていて、大変ですねとねぎらってくる。さて、本文はというと、あちこちが赤や青、緑、オレンジの校閲者のコメントで埋め尽くされている。コメントの中には大ボスが直した文章もあるようだ。(Smolen wroteとあった)またコメント者も別にいるようだ。コメントはほぼほぼ内容についてのものである。また直しに時間がかかることを覚悟して、またため息。
っとここでSupervisorが怒りながら入室。自分が先週見た患者が何かに対してクレームをつけて今日、予約外で来ているらしい。なにもしらずProfessorが見たところ、いろいろ言うもんで、お前が見てくれと。 あ~こういうの、日本でもよくあるよな~と見学者は思い出しながらその光景を見ている。 医師にとっては研究と外来とダブルパンチである。大きなため息が出る。
12:00
先ほどの怒り心頭の患者が入室。ずっと何かを言っている。聞きながらため息が出る。確かに一部は的を射ているが、おおむね自己主張なのかもしれない。良かれと思ってやっているのに、「なんてことをしやがる」といわれているようにすら感じる。頼んできているのは自分じゃないかと心の中でつぶやく、こともあるのかも笑笑
主張があまりに強く、納得せず他科への受診を主張するので、血管外科と皮膚科と腎臓内科への紹介状を作成する。まさか紹介先でも好きなことを言うのでないだろうな・・・と言葉を飲み込む。
12:30
残務整理をしながら、先ほどの患者の件のつきSupervisorに報告。研修生を開放。見学者は気楽でいいよな・・・と思っていることでしょう。
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やっぱり大変なのはどこも同じ
はじめに書いていた通り、当初は欧米でくくっていたのですが、最近は個人で相手を見れるようになりました。行動を気持ちを推測しながら(あれだけため息が出るとわかります)、書いてみましたが、せっかちな人や、のんびりした人、キレッキレな人もいますし、別のPri.Doz.で鈍感力の人もいます。
でも皆が一様ではなく、各個に頑張っています。
今日の外来の彼なんて、昼前になるとテンション上がってきて、チョコを食べながら外来するのですが、時々くれますし、調子いい時には、日本の話を聞いてきたりしてくれます。「武蔵」について知りたいと思うところもあるようです。お茶目な彼です。
すこし前に、いつもラウンドしているブログで、「人種でくくらない」ということを話題にしたものを拝見しました。 その方は、いつも「中国人か?」と聞かれることと、デンマークで「アジア人全体を侮辱する言葉を浴びせられた」ことがあるようです。
その方が言っていました。問題は人種ではなく、個人なのだと。
個人がどう素敵な人であるかを見ることが、重要であると。
そういえば、私ももうすぐ2か月になって、
「アジア人」→「日本人」→「私」
として扱われ始めたのを感じます。
私も同様に
「欧州人」→「○○さん」
そうなってきていたのですね。
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外来の話は余興ですが、
もっと言語能力があったら、もっと気持ちがわかったりもっと個人を理解できるのになと残念でなりません。オーストリア人は、結構陽気な人が多い気がします。そこにももっと触れてみたかったなあ。
日本にいると、島国だからか、ほとんど多様な人種が同時に存在する状態になりません。言語的には、コミュニケーション的にも困ることがありません。私自身も海外旅行ができるのに英会話ができたらいいなとはじめは思っていた程度でした。
しかし他の方のブログなどを見るにつけ、自分を変えていくことの大事さと、他人を理解し、受け入れる自分の広さを持つことの重要性を新たにします。もっと言語を勉強してから来たら良かった!
他人のブログに批判の書き込みをするなんて(ブログ炎上)、日本くらいでしょうか?
大変なのはどこも一緒ですね。