リウマチ外科医の徒然草

より良く生きるための抜け穴探しのゆる~いブログ

母指Nalebuff分類 TypeI変形へのベストトリーメントは何か? カオスな現状と暗黙知の統合のための備忘録

最近、一周回ってまた母指変形に凝っています。

 

これまで、TypeI変形の疫学などを中心に研究・発表してきました。

 

最もよく見られる変形にもかかわらず、

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”どこから”が変形で、

”どこから”が手術が必要で、

”いつまで”に治療を始めないと、

”どのように”なるのか?

 

 

最もシンプルなこの答えさえも実ははっきりしていません。

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 最も古いステージ分類はTerrono分類

 

もともと母指変形がタイプ別に分けられたのは、1968年のことです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

この時は3タイプだったのですが、

はじめにこれが提唱されたのは、

アメリカリウマチ学会リウマチの診断基準が発表される(1978)よりも前なのです。ものすごい観察眼です。その後も臨床を観察に観察を続けていき、

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

を経て、お弟子さんのSteinが発表した、

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

ここに完成します。1996年のことです。

罹患関節と変形のパターンから6つに分類されています。

 

われわれは当初はStein分類ということにしていましたが、おおもとをたどるということや世界的にも”Nalebuff分類”が定着していますので、

 

現在はNalebuff分類に用語を統一しています。

 

ところがRAは多関節罹患なので、実際には複数関節が破壊され、このように純粋にタイプに分けることができないこともありますので、

 

オリジナルの方法に加えて単純X線による評価を加味します。

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そして、同じくお弟子さんであるTerronoが

 

TypeI変形をステージ分けしています。

 

これ自体がとても画期的とまでは言えませんが、論文の本文を見ても観察眼に成り立った記述がなされており、結果として彼のステージは手指機能と相関することが明らかとなっています。

 

いずれにせよ、関節の可動性で

Advanced、Moderate、Earlyの3段階に分けられます。

 

 

この分類は1996年のもので、私的にはもう少し改良点があると思っているのですが、これに関しては後日、論文などにできた後に書きます(著作権などの関係)。

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実際には何が機能障害を規定?

 

直接的には、関節破壊の有無です。具体的には関節面の保持です。

 

ところが関節破壊に対する治療法は、

・ある程度傷んでいてもそのまま頑張って使う

・人工物への入れ替え

 

この二つしかありません。

もしくは、無抵抗主義として、関節固定を行う。

 

これらの違いは、膝関節いうところの

 

高位脛骨骨切り術と人工関節置換術

 

この二つの対決と同義です。

(膝関節では関節固定はありませんよね笑)

 

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母指に関しては、評価がしづらいので、成書にはほとんど記載されていない暗黙知として、リウマチ外科医は軟部組織の拘縮と短縮、変性が大きく治療経過を大きく左右します。

 

膝関節では、もともとの屈曲拘縮は骨切り位置の調整で、伸展0度を目指しますが、屈曲は大腿四頭筋の拘縮に依存するとして、屈曲は改善しないとされています。

 

高位脛骨骨切り術は、人体バランスが崩れるくらいのアライメント調整の際には、ハイブリッド法を用いて、骨短縮を併用します。

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翻って、母指ではどうか?

 

海外では多くの施設で、

CM関節の形成術を行う、もしくは人工関節を行い、MP関節は固定術を行っています。

日本においても母指MP関節の固定はある程度スタンダートでしょう。

 

その理由が、軟部と関節の問題を同時に解決する必要があり、それが困難だからです。

 

 

 一方、先進的な手の外科は可動性を追求します。

 

というのも、母指ではIP関節の固定が避けられないことがままあるからです。

 

MP関節とCM関節は可動性を残す。

 

これが至上命題です。

とはいえ、われわれマニアでは、ここまでは一般常識レベルです。

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ここから先が未開の地

 

可動性を残す。

この一点を目指すのにあたり、同時に獲得せねばならない安定性の獲得というのが、難しいのです。

 

一般的に

 

安定性 ≠ 可動性 トレードオフの関係

 

です。

 

実践的に有効な施策は、MP関節にシリコンインプラントを挿入する方法です。

 

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シリコンインプラントはその可撓性により、

側副靭帯より近位までの骨短縮を許容します。

示指だけは側副靭帯の再建を要しますが、母指では問題ありません。

 

よくされるのが、足趾用のインプラントを母指に使用します

 

骨短縮が十分可能なため、MP関節の掌側脱臼にも対応できます。

 

その時に掌側関節包をどうするのか?という疑問がわれわれの中ではあります。新潟の先生は関節包を横切りしています。背側侵入で、掌側を裏から横切り。

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一方、私のところは可能な限りMP関節の解剖学的運動の再建を目指す。という観点から、スワンソンによるスペーサー効果から得られた可動性ではなく、表面置換型を用いた可動性を狙っています。

 

もちろん成功すればとてもよいのですが、ピットホールが多すぎて安定しないのです。

まず、側副靭帯の問題。

 

スワンソンと異なり、表面置換には自己による安定性や制動性はありません。

結構安定性の獲得で苦労するのです。 少なくない術後脱臼。。。。

 

 

十分に行えない骨切除による掌側亜脱臼の残存。

 

掌側関節包は、側副靭帯付着部を温存するため、スワンソンほど簡単に掌側を乖離できません。というのも、掌側板と関節包、側副靭帯は一体の組織で、強固に連結しています。掌側だけはぐのは難しいのです。

 

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われわれは関節包外から掌側の剥離を試みていますが、FPBの付着部まではぐのはむつかしい。。。もちろん、関節包までたどり着くには、種子骨の問題も残ります。

 

 

当然、スワンソンと比較して変形が軽度でないといけない、つまり軟部組織の状態に結果が左右されるということになります。

 

何が何でも表面置換とはいかないとは思うのですが、どこまでが可能なのでしょうか?

軟部組織の評価法が一定化すると可能になるのかな?

 

暗黙知の出し合いが学会の現状で、いつも同じ人がしゃべっています。

意見の誰もが同じ部分のことしかいってくれません。。。

早く大事なところを教えてよ~~

 

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